「11の国のアメリカ史」は、知的好奇心が刺激され、読んでいてワクワクした(書評)

今回の記事では「11の国のアメリカ史(上、下)」という本を読んだ感想について書きます。

この本を読む前のアメリカの文化の違い、区分けといったら、せいぜい北部と南部という単純なものしか頭の中にありませんでした。

教科書などで記される南北戦争へ至る経緯も、奴隷制度などの価値観や産業構造の違いなどによる対立と書いてある程度です。

間違ってはいないと思いますが、それだけでアメリカ史上最も死傷者を出した戦争が起こったとは考えにくく、教科書的な説明では到底納得できませんでした。

「11の国のアメリカ史」を読んだ結果、色々な疑問が晴れ、いかに物事を単純化してみていたことに大いに反省しました。アメリカ南部を中心に書評したいと思います。

「11の国のアメリカ史」 はこんな人におすすめ
  • 歴史好き
  • アメリカとビジネスをしている(予定がある)
  • アメリカ留学を考えている

アメリカの価値観は移民によって作られた

中学生の時、公民権運動の指導者キング牧師に関するドキュメンタリーを観てから、アメリカの奴隷制度、アフロアメリカンへの差別というものを意識するようになりました。

何故南部には、北部にはないはずの奴隷制があるのか長年疑問でしたが、本書に答えがありました。

それは移住元です。

アメリカが移民国家というのはご存知の通りですが、この本を読む前は、メイフラワー号でピューリタンがやってきたとか、その程度の事しか知りませんでした。

実際は、北部(ヤンキーダム)のピューリタンだけでなく

  • イギリスとスコットランド国境の戦乱から逃れてきたボーダーランド人たち(大アパラチア)
  • 理想郷を作ろうと移民してきた寛容で平和主義なクエーカー教徒(ミッドランド)
  • イギリス南部の荘園社会を再現しようとやってきた郷紳(ジェントリー)の長男以外の息子(タイドウォーター)

この挙げたもの以外にも色々な人達が、それぞれの文化や価値観を持ち込みネイション(地域)を形成してきました。

アメリカの価値観の違いはそもそも移住元、移住してきた人の属性(信仰や階級)にあり、それが今なおネイションの文化として残っているようです。

ちなみに本書で使われるネイションの意味はこのような意味です。

ネイションとは、共通の文化、民族的起源、言語、歴史的経験、工芸品、シンボルを共有しているか、あるいは共有すると信じている人びとの集団である。

「11の国のアメリカ史 上」序章5ページより引用

南部奴隷制度の起源はバルバドスにあり

アメリカの深南部へ移民してきた人たちは、カリブ海のイギリス植民地バルバドスのプランテーション所有者の子孫でした。

地図:バルバドスの位置

バルバドスは砂糖プランテーションがあり、当然奴隷制度がありました。

バルバドスというと、日本人にとってはなじみがなく、アメリカの歌手リアーナの出身地というぐらいしか私も知りません。

日本ではなじみのないバルバドスですが、そのプランターたちは、イギリス屈指の豊かで、狡猾な人達の集まりでした。

彼らはナイト爵位やイングランドの地所を購入し、子供たちをイングランドの寄宿学校に入れ、家を最新の最も高価な家具や流行品や贅沢品で飾り立てた。

選挙権を得るのに煩わしい財産資格を押しつけることで、大プランターたちは、その島の代表議会や統治参事会そして司法部門を独占した。

あまりに多くのプランターたちがイングランドに新たに領地を購入し、不在地主となってイングランドに戻ったため、彼らバルバドス人たちは、イングランド議会で最も効果的な植民地ロビー活動勢力となり、帝国の税負担を確実に他の植民地に向けるように計らった。

「11の国のアメリカ史 上」第7章「深南部の創設」136~137ページより引用

開発され尽くした狭いバルバドスでは、プランター達の子孫へ与える土地がないので、バドルバドス社会(奴隷制度)を拡張する必要がありました。

徐々にバルバドスから北上していった結果、アメリカ南部(サウスカロライナ)へ到達。

深南部の成り立ちや社会状況、価値観、特に逃亡奴隷への処罰についての説明は「人類への挑戦」と言えるほど残虐で血なまぐさい。

工業=先進的、農業=後進的という思い込み

工業と比較すると、農業=後進的というイメージがあり、当然貧しいものだという思い込みがあった。

南部が圧倒的工業力のある北部相手に、なぜ戦争を出来たのか疑問であったが、アメリカ南部は1850年において、世界の綿花生産量に占める割合が68%だったという事実に驚愕する。(下巻52ページ)

それだけの経済力があったから、南部連合は連邦から分離独立し、北部と戦火を交えることができた。

事実は小説より奇なり「ゴールデン・サークルの騎士団」

連邦を離脱した南部の中には、アメリカ南部、中米、南米の北部、キューバや西インド諸島をぐるりと囲む奴隷帝国を作ろうとした人たちがいた。

ちなみにそれらの地域の事を彼らは「ゴールデン・サークル」と呼び、奴隷帝国を実現しようとした秘密結社が「ゴールデン・サークルの騎士団」という、ウソみたいなホントの話。(下巻62ぺージ)

「事実は小説より奇なり」なんてレベルじゃない。

アメリカ南部はKKKもだけど、創作の世界に出てくる悪の帝国のようです。

そして、これが事実であったことに絶望します。

現代まで続く北部と南部の闘争

リーマンショックの頃にビッグ3(フォード、GM、クライスラー)が破綻したことは記憶に新しいと思います。

自動車は北部の産業で、それらを間接的に破壊したのが南部だったら?

そんなことが可能なのだろうか?

外国の自動車メーカーを誘致し、間接的に北部の自動車産業を壊滅状態にした

アメリカ南部は賃金が低く、労働者の立場が弱い。

それを利用し、北部の自動車産業を間接的に攻撃、壊滅した。

公民権運動と六〇年代運動の直後に、ディキシー・ブロックは、労働組合をなくした環境でかなりの低賃金や低税率、緩い規制を内外の企業に提供することで、ヤンキーとミッドランドの製造業セクターの大半を流出させた。

北アメリカのヤンキー自動車産業は、深南部と大アパラチアにおいて外国所有の工場に取って替わられたために、(中略)一九九〇年代と二〇〇〇年代にほぼ壊滅状態に陥った。

「11の国のアメリカ史 下」第25章「文化衝突」182~183ページより引用

※ディキシー・ブロック:深南部、大アパラチア、タイドウォーターの連合

ここまでやると北部への凄まじい憎悪を感じる。

同じ国でもあれだけ価値観が違っていると、同じ国だと思えないのかもしれない。

余談ですが、南部が労働者の地位が低いという話を知ったとき、差別的な価値観がある地域は、肌の色に関係なく立場の弱いもの全てに支配的であるのだと感じました。

進化論を教えないアメリカと世界トップクラスの大学を有するアメリカ

アメリカでは進化論を学校で教えないという話を一度は聞いたことがあると思います。それは南部(ディキー・ブロック)において顕著な話で、北部ヤンキーダムやその同盟者レフトコーストなどでは考えられないようです。

アメリカ北東部には、ハーバード大学などのアイビーリーグと称される名門大学群があります。

マサチューセッツ工科大学やイェール大学もヤンキーダムです。ニューイングランドの出身者がカリフォルニアへ移住し、作った学校がカリフォルニア大学バークレー校です。(下巻87ページ)

誰でも一度は聞いたことがある名門大学は、北部やその出身者によって創設されています。

方や進化論を教えない地方があり、方や世界トップクラスの知の集積地がある。

そしてそれら2つの陣営が長い間対立している。2つのアメリカがある。

この両極端さに衝撃を受けます。到底同じ国だとは思えないからです。

テレビや新聞の限られた情報で物事を知ることは難しい

この本を読んで、テレビや新聞などの「小さく限られた時間や紙面で外国を知ることは難しい」という当たり前のことに気付かされたと同時に、勝手に偏ったイメージで単純化していた事を大いに反省しました。

アメリカにも過去にも現在にも色々な人がいた。

先住民の土地に対価を払った人(クエーカー教徒)もいれば、武力によって奪った人(アパラチアのボーダーランド人)もいた。

奴隷制度を持ち込んだ白人(南部プランター)もいれば、それに反対した白人(北部諸州や公民権運動活動家)もいた。

肌の色や人種、国籍などで一括りにすることは難しい。

それは日本においても同じことなのだと思います。

どうしても物事を単純化してしまいがちなので、なるべく物事を多面的にみられるように気を付けたいです。

「11の国のアメリカ史」は2019年で一番面白かった本

アメリカは若い国で歴史が浅いと言われていますが、アメリカ史に関しては世界のどの歴史にも負けないぐらい濃くて面白いと思いました。

この本に書かれている事は、教科書には書かれていないアメリカです。読んでいて、とても知的好奇心が満たされ、とにかくワクワクしました。

外からアメリカを見るだけなら、よほどの興味がない限り読む必要はないと思いますが、ビジネスや留学などでアメリカと深く関わる場合は読んでおいたほうがいいでしょう。

教科書やメディアを通しても、分からなかったアメリカの疑問が本書でいくつも晴れました。

2019年一番面白かった本です。是非一度読んでみてください。


11の国のアメリカ史――分断と相克の400年(上)


11の国のアメリカ史――分断と相克の400年(下)

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